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星の眼、人の眼、台風の眼

軌道から地表を見下ろす視線にだれもが慣れてしまった時代に、わたしたちのこの両目はどこから何をみているのだろうか。

わたしたちが日没の一瞬に心を奪われて見つめる宇宙の深さ、星空の広さ、真夏の雲の激しさ、垂れ込める霧の厚さ、夜明けの祈りのまたたきの遠さ。

こうした大気の厚みが、衛星からの視点ではかぎりなく薄くなり、地表の生類のうごめきは二次元平面の動点に変換される。

その眼下では、日々の生活のなかで見慣れていた道路や線路や山肌のうねりがふしぎな幾何学模様に描き直される。

街を沈め木を折る暴風雨が、音のない真っ白な渦巻きになる。

そしてわたしたち自身もひとつのドットになる。

ひとりひとりの迷い、回り道、背伸び、うつむき、決意…

人生の厚みは〈星の眼〉の下ではすべて押しつぶされ、薄い画面の上の輝点として現れている。

ひとりひとりがこのうえなく無価値なものとなる。

あらゆるものを見渡したいという欲望がかなえられる一方で、わたしたち自身の存在がかすかな明滅となる。

わたしたちは星の眼を手に入れ、平等で幸福なモザイクになる。

 

 

大阪大学臨床哲学研究室

高原耕平